暗号資産の取引でIPアドレスは特定される?追跡の仕組みと対策を解説

カフェでビットコインとスマートフォンを持ち、ショックを受けた表情の若い日本人女性

「暗号資産は匿名で取引できる」という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし実際には、暗号資産の取引履歴はすべてブロックチェーン上に公開されており、追跡ツールを使えば資金の流れを誰でも確認できます。

この記事では、暗号資産取引における「ウォレットアドレス」と「IPアドレス」の違いを整理し、どのような場合に追跡・特定されるのか、そしてプライバシーを守るための具体的な対策について解説します。

目次

暗号資産の「アドレス」とIPアドレスは別物

「暗号資産 IPアドレス」と検索する方の中には、暗号資産で使われる「アドレス」とインターネット上の「IPアドレス」を混同しているケースが少なくありません。まずはこの2つの違いを整理しておきましょう。

ウォレットアドレスとは

ウォレットアドレスは、暗号資産を送受信するための識別子です。銀行口座の口座番号に相当するもので、ビットコインの場合は「1A1zP1eP5QGefi2DMPTfTL5SLmv7DivfNa」のような長い英数字の文字列で表されます。

ウォレットアドレスの特徴:

  • 🔑 秘密鍵から生成された公開鍵をハッシュ化して作られる
  • 🔄 同じウォレットでも取引のたびに新しいアドレスが発行される
  • 🔍 アドレス単体から所有者の個人情報を特定することは困難

IPアドレスとは

IPアドレスは、インターネットに接続する機器を識別するための番号です。「192.168.1.1」のような形式で、Webサイトへのアクセスやメールの送受信など、あらゆるインターネット通信で使用されます。

IPアドレスからは、おおよその地域(都道府県レベル)や契約しているプロバイダを推測できますが、氏名や住所などの個人情報を直接特定することはできません。

混同されやすい理由

暗号資産の文脈で「アドレス」という言葉が頻繁に使われるため、インターネットの「IPアドレス」と混同されやすくなっています。

用語役割特定できる情報
ウォレットアドレス暗号資産の送受信先取引履歴・残高
IPアドレスインターネット接続の識別おおよその地域・プロバイダ

両者は全く異なるものですが、暗号資産取引のプライバシーを考える上ではどちらも重要な情報となります。

「ビットコインは追跡不可能」は誤解

「ビットコインは匿名通貨だから追跡できない」という認識は、大きな誤解です。実際にはすべての取引履歴が公開されており、専門ツールを使えば資金の流れを追跡可能です。

ブロックチェーン上の取引はすべて公開されている

ビットコインをはじめとする多くの暗号資産は、ブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳に取引履歴を記録しています。この台帳は誰でも閲覧可能で、以下の情報を確認できます。

確認できる情報:

  • 📤 送金元のウォレットアドレス
  • 📥 送金先のウォレットアドレス
  • 💰 送金された金額
  • ⏰ 取引が行われた日時
  • 📝 トランザクションID(取引の識別番号)

つまり、ウォレットアドレスさえわかれば、そのアドレスの残高や過去のすべての取引履歴を誰でも確認できるのです。

ウォレットアドレスから個人を特定する難しさ

ブロックチェーン上の取引は公開されていますが、ウォレットアドレスだけでは所有者の個人情報を直接特定できません。アドレスは単なる文字列であり、氏名や住所といった情報は含まれていないためです。

ただし、以下のような状況ではアドレスと個人が紐づけられる可能性があります。

紐づけられるケース:

  • 🏦 取引所でKYC(本人確認)を行った場合
  • 📱 SNSでウォレットアドレスを公開した場合
  • 🛒 オンラインショップでの支払いに使用した場合

取引所のKYC情報との紐づけで特定されるケース

国内の暗号資産取引所は、金融庁に登録された暗号資産交換業者として運営されています。口座開設時には本人確認(KYC)が必須であり、氏名・住所・生年月日などの情報が取引所に登録されます。

取引所のアドレスに送金した時点で、そのトランザクションは取引所が保有する顧客情報と紐づけられる可能性があります。法執行機関からの照会があれば、取引所は顧客情報を提供する義務があるため、「取引所を使えば匿名」とは言えません。

無料で使える暗号資産追跡サイト

ブロックチェーン上の取引履歴は、ブロックチェーンエクスプローラーと呼ばれるWebサイトで誰でも無料で確認できます。

blockchain.com(ビットコイン)

blockchain.comは、ビットコインの取引を検索できる代表的なエクスプローラーです。トランザクションIDやウォレットアドレスを入力すると、以下の情報を確認できます。

確認できる情報:

  • 📊 取引の承認状況(何ブロック承認されたか)
  • 💸 送金額と手数料
  • 📍 送金元・送金先のアドレス
  • 📅 取引日時

Etherscan(イーサリアム)

Etherscanは、イーサリアムおよびERC-20トークンの取引を検索できるエクスプローラーです。NFTの取引履歴やスマートコントラクトの情報も確認できます。

その他の通貨にも対応エクスプローラーがあります。

暗号資産エクスプローラー
ビットコインblockchain.com、Blockstream
イーサリアムEtherscan、Ethplorer
XRPBithomp、XRP Charts

トランザクションIDから送金状況を確認する方法

送金した暗号資産が届かない場合や、取引の承認状況を確認したい場合は、トランザクションIDをエクスプローラーで検索します。

確認手順:

  1. ウォレットアプリや取引所で送金時のトランザクションIDをコピー
  2. 該当する暗号資産のエクスプローラーを開く
  3. 検索窓にトランザクションIDを貼り付けて検索
  4. 取引の詳細画面で承認状況を確認

ビットコインの場合、通常10分程度で1承認され、6承認(約1時間)で取引が確定したとみなされます。

IPアドレスが特定されるケース

ウォレットアドレスとは別に、インターネット上のIPアドレスが記録・特定される場面があります。

取引所やウォレットサービスへのアクセス時

暗号資産取引所やWebウォレットにログインする際、そのサービスはアクセス元のIPアドレスを記録しています。これはセキュリティ対策の一環であり、不正アクセスの検知に使用されます。

取引所がIPアドレスを記録する目的:

  • 🛡️ 不正ログインの検知
  • 📍 アクセス地域の確認(海外からの不審なアクセス検知)
  • 📋 ログイン履歴の管理

ブロックチェーンエクスプローラーの利用時

ブロックチェーン分析企業のChainalysisは、自社が運営するウォレットエクスプローラーサイトを通じて、サイトにアクセスしたユーザーのIPアドレスを収集していたことが報じられています。

特定のウォレットアドレスを検索したユーザーのIPアドレスと、そのアドレスを関連づけることで、捜査の手がかりを得ていたとされています。

P2Pネットワークへの参加時

ビットコインなどの暗号資産は、P2P(ピアツーピア)ネットワークで取引データを伝播しています。フルノードを運用している場合、ネットワーク上の他のノードに自身のIPアドレスが公開されます。

日本銀行金融研究所の研究によると、ネットワーク上のノードのIPアドレスや取引データの伝播状況を分析することで、約11%の取引について送金元アドレスに対応するユーザーの端末IPアドレスを推定できるとの試算結果が示されています。

暗号資産追跡ツールと法執行機関の調査手法

暗号資産の追跡は、専門的なツールと分析技術によって行われています。

Chainalysisなどの追跡ツールが行っていること

Chainalysis(チェイナリシス)は、ブロックチェーン分析の最大手企業です。法執行機関や金融機関向けに、以下のような分析サービスを提供しています。

主な機能:

  • 🔗 クラスタリング:同一主体が管理するアドレスをグループ化
  • 📈 資金フローの可視化:取引の流れをグラフで表示
  • 🏷️ エンティティ識別:アドレスが取引所やミキサーなど、どの種類のサービスに属するかを特定

これにより、盗まれた暗号資産がどのアドレスを経由して、最終的にどこに移動したかを追跡できます。

警察・法執行機関はどこまで追跡できるか

法執行機関は、上記のような専門ツールに加えて、以下の手段で捜査を行います。

捜査手段:

  • 📄 国内取引所への情報照会(任意または令状に基づく)
  • 🌐 海外取引所への国際捜査共助
  • 🔍 ブロックチェーン上の取引分析
  • 💻 押収したデバイスの解析

2024年に公表された警察庁の資料によると、国税庁も「暗号資産関連情報提供ライセンス」を調達しており、税務調査においてブロックチェーン分析ツールを活用しています。

実際に追跡された事件の事例

2024年5月、暗号資産取引所「DMMビットコイン」から約482億円相当のビットコインが不正流出しました。警察庁とFBIの合同捜査の結果、北朝鮮のサイバー攻撃グループ「TraderTraitor」による犯行と特定されました。

この事件では、ブロックチェーン分析企業Chainalysisが資金の流れを追跡し、攻撃者がミキシングサービスや複数のブリッジサービスを経由して資金を移動させた経路を明らかにしています。ミキサーを使っても追跡されたことは、「ミキサーを使えば安全」という認識が誤りであることを示しています。

ミキサーやプライバシーコインでも追跡される可能性

ミキサー(タンブラー) は、複数のユーザーの暗号資産を混ぜ合わせて資金の出所を隠すサービスです。しかし、最新の分析技術ではミキサーを経由した資金も追跡可能なケースが増えています。

プライバシーコイン(Monero、Zcashなど)は、取引の匿名性を高める技術を搭載していますが、多くの国内取引所では取り扱いがなく、換金時には結局KYCが必要な取引所を経由することになります。

IPアドレスから分かること・分からないこと

IPアドレスが特定された場合、どこまでの情報が把握されるのでしょうか。

分かること:おおよその地域・プロバイダ

IPアドレスからは、以下の情報を推測できます。

推測できる情報:

  • 📍 おおよその地域(国・都道府県レベル)
  • 🏢 契約しているインターネットサービスプロバイダ(ISP)
  • 🌐 接続回線の種類(固定回線・モバイル回線など)

ただし、これらは「推測」にとどまり、正確な住所を特定することはできません。

分からないこと:氏名・住所などの個人情報

IPアドレス単体からは、氏名、住所、電話番号などの個人情報を直接特定することは不可能です。これらの情報を得るには、ISPが保有する契約者情報が必要になります。

ISPへの開示請求が必要なケース

IPアドレスから個人を特定するには、ISPへの発信者情報開示請求という手続きが必要です。

開示請求の流れ:

  1. 裁判所への開示請求の申し立て(民事の場合)
  2. 裁判所がISPに対して開示命令
  3. ISPが契約者情報を開示

法執行機関の場合は、令状に基づいてISPに情報提供を求めることができます。一般人が「IPアドレスを知った」だけでは、個人情報にたどり着くことはできません。

税務署に暗号資産の取引がバレる仕組み

「暗号資産の利益は税務署にバレないのでは?」という疑問を持つ方も多いですが、実際には税務署が取引情報を把握する仕組みが整備されています。

取引所から税務署への情報提供

令和2年度の税制改正により、暗号資産デリバティブ取引については、取引所から税務署への支払調書の提出が義務化されました。現物取引については現時点で法定調書の対象外ですが、税務署からの任意の情報提供依頼に対して、取引所が協力するケースがあります。

国税庁は暗号資産取引の調査を強化しており、令和4年度には615件の調査のうち約89%で申告漏れの指摘が行われています。

20万円以上の利益と確定申告の関係

暗号資産取引で得た利益は、税法上「雑所得」に分類され、総合課税の対象となります。

確定申告が必要なケース:

  • 💼 給与所得者で、給与以外の所得(暗号資産の利益を含む)が年間20万円超
  • 🏠 専業主婦・無職の方で、所得が年間48万円超(基礎控除額)

なお、医療費控除やふるさと納税で確定申告を行う場合は、20万円以下の雑所得も申告が必要です。

無申告のリスク

暗号資産の利益を申告しなかった場合、以下のペナルティが課される可能性があります。

ペナルティ内容
延滞税納付期限を過ぎた日数に応じて加算
無申告加算税50万円以下の部分は15%、超える部分は20%
重加算税意図的な隠蔽の場合、35〜40%

ブロックチェーン上の取引履歴は消えないため、数年後に税務調査が入る可能性もあります。

【参考】 ・国税庁:暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について

暗号資産取引のプライバシーを守る方法

暗号資産取引を行う上で、プライバシーを守るための対策を紹介します。

VPNの利用とサービス選びのポイント

VPN(Virtual Private Network) を使用すると、インターネット接続時のIPアドレスをVPNサーバーのものに置き換えることができます。これにより、取引所やWebサービスに対して本来のIPアドレスを隠すことが可能です。

VPN選びのポイント:

  • 📝 ノーログポリシー:接続ログを保存しないことを明示しているか
  • 🌍 サーバーの設置国:プライバシー保護に積極的な国(スイス、パナマなど)にあるか
  • 🔐 暗号化の強度:AES-256などの強力な暗号化を採用しているか
  • 💰 支払い方法:暗号資産での支払いに対応しているか

無料VPNは接続ログを広告会社に販売しているケースがあるため、プライバシー保護の目的には適しません。

公衆Wi-Fiを避ける

カフェや駅などの公衆Wi-Fiは、通信が暗号化されていない場合があり、第三者に通信内容を傍受されるリスクがあります。

公衆Wi-Fiで避けるべき操作:

  • ❌ 取引所へのログイン
  • ❌ ウォレットでの送金操作
  • ❌ 秘密鍵やシードフレーズの入力

やむを得ず公衆Wi-Fiを使用する場合は、VPNを必ず併用してください。

ハードウェアウォレットの活用

ハードウェアウォレットは、秘密鍵をオフラインで管理する専用デバイスです。インターネットに接続されていないため、ハッキングによる秘密鍵の流出リスクを大幅に軽減できます。

取引所に資産を預けたままにしておくと、取引所がハッキング被害に遭った場合に資産を失う可能性があります。長期保有する暗号資産は、ハードウェアウォレットで自己管理することを検討してください。

よくある質問

暗号資産の取引は完全に匿名ですか?

いいえ。ブロックチェーン上の取引履歴はすべて公開されており、ウォレットアドレス間の資金移動は誰でも追跡可能です。取引所を利用する場合は本人確認情報と紐づくため、匿名性はさらに低下します。

VPNを使えばIPアドレスは隠せますか?

VPNを使用すると、接続先のWebサービスには本来のIPアドレスではなくVPNサーバーのIPアドレスが表示されます。ただし、VPNサービス自体がログを保存している場合は、法執行機関からの照会に応じて情報が開示される可能性があります。

過去の取引も追跡される可能性はありますか?

はい。ブロックチェーン上の取引履歴は永続的に記録されており、削除や改ざんはできません。数年前の取引であっても、後から追跡・分析される可能性があります。

まとめ

暗号資産の取引では、ウォレットアドレスIPアドレスという2つの「アドレス」がプライバシーに関わってきます。ブロックチェーン上の取引は誰でも閲覧可能であり、「ビットコインは追跡不可能」という認識は誤りです。

取引所のKYC情報、ブロックチェーン分析ツール、IPアドレスの記録など、さまざまな経路から取引と個人が紐づけられる可能性があります。税務署も暗号資産取引の調査を強化しており、利益が出た場合は適切に確定申告を行う必要があります。

プライバシーを守りたい場合は、VPNの利用や公衆Wi-Fiの回避、ハードウェアウォレットでの資産管理といった対策を検討してください。

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